
山深き祠に宿る土の神。積み重ねと根を大切にする存在で、静かに見守りながら人々の基盤を育む。
記録と継承の力を持つ。
司る領域:
家系の守護・不動産・伝統事業・家庭円満・子育て・長期的計画・貯蓄・相続・古き知恵
「根祠(ねやしろ)の記」
風渡る丘を越え、深き山の静寂に包まれた場所に、一つの祠がある。
巨木の根に抱かれた苔むす岩窟の中にある祠は、「語の根祠(ねやしろ)」と呼ばれていた。
そこに宿る神こそ、ツチハヌ――記録と継承の守り手である。
彼は語られたすべてを大地に染み込ませ、忘れ去られそうな想いすらも、土の奥底に静かに抱いていた。
ツチハヌには声がない。
代わりに彼の語は「根」として広がってゆく。
ひとたび誰かが語を綴れば、それは地の底を這い、どこか遠くの者へも静かに届く。
あるとき、村の老木が枯れ始め、人々はその原因を知らずに困っていた。
木の下にある古い石碑には、読めぬ言葉が刻まれており、誰もその意味を知らなかった。
若き語り部がツチハヌの祠を訪れ、そっと耳を土に当てると、不思議なことに彼女の胸に一つの響きが届いた。
「この地の語は、継がれていない。」
その夜、彼女は語りの儀を行い、忘れ去られた氏の名を一つずつ語り直した。
すると翌朝、老木はわずかに新芽をつけた。
ツチハヌは「忘れられること」を最も悲しむ神である。
だが同時に、「想い出すこと」が何よりも強い語であると信じている。
今も山祠の根の奥深くで、彼はすべての足跡を記録し続けている。
声にならぬ願いも、子どもが石に描いた絵も、大人が遺した一文も――
いつか誰かがそれを思い出し、語るその日まで。
語りとは、声を出すことだけではない。
根を張るように、静かに、しかし確かに、世界に残る道を編むこと。
それがツチハヌの教えである。