
花々の祠に佇む語の巫女。かすかな声や涙を拾い集め、語として優しく編み直す。
共鳴と癒しの語を携え、心の奥に静かに寄り添う存在。
司る領域:
芸術(音楽・詩)・恋愛成就・感情の解放・過去の人間関係修復・家族の絆・ペットとの繋がり
「花環の祈り、風にほどけて」
高原の野に、風とともに揺れる白い花々。
ひとつの小さな円――まるで誰かの手で編まれたような、自然の花環の中心に、
静かに佇む祠がある。
その祠は、語られぬ者のためにある。
そしてそこに、風に溶けるように姿を現すのが――シラノエ。
声を上げず、姿も定かでない。
ただそっと寄り添い、誰かの“願いにならなかった願い”を、花のように拾い上げる存在。
彼女の歩いたあとには、風が花を撫で、花びらがふわりと舞い上がる。
それはまるで、言葉の代わりに空へと送られる祈りの欠片。
昔、話すことが怖くなった子どもがいた。
心の奥には伝えたい想いがたくさんあったけれど、
うまく形にできず、やがて沈黙を選ぶようになった。
その子が迷い込んだのが、あの野原だった。
風はやさしく、花は揺れて、
そして祠の周囲には、だれが置いたのか小さな花冠がいくつも置かれていた。
そのひとつを手に取った瞬間、風が吹き、花が空へ舞い――
耳元でかすかに囁くような音がした。
「伝えられなかった気持ちは、ここに咲いていた。」
振り返ると、誰かがそっと笑っていた。
白い衣をまとい、髪には花を編み、
目元に微笑みを宿した者――それがシラノエだった。
彼女は言葉ではなく、風と花で語る。
そして、言えなかった想いを、咲いた花のようにそっと編み、
誰かの心に届ける術を知っている。
その日から、子どもは毎日、花を編んで祠に捧げた。
いつしか言葉も少しずつ戻り、
編んだ花冠には、その子の“語にならなかった語”が静かに宿っていた。
シラノエに祈るというのは、
「言えなかったことを、それでも大切にする」ということ。
祠に花を供え、風に耳を澄ませば、
たとえあなたが語らずとも――
あなたの心に咲いた想いは、ちゃんと誰かに届いていく。
風に舞う白い花びらのなかに、
シラノエの羽音が今日も静かに響いている。