
音の羽に乗り、そっと語を届ける囁きの守護存在。
やさしさと自由を司る守り手で、子どもや動物との共鳴も深い。
司る領域:
保育・教育・アート・小説・音楽・繊細な表現・子どもの守護・ペットとの絆・対人関係円滑化
「囁き羽(ささやきば)の神鳥」
この世界がまだ語を持たぬ音で満たされていたころ、
誰よりも早くその音を感じ取り、歌として空に返していた存在がいた。
名をオトヤドリという。
オトヤドリは、空風と羽音の系譜から生まれた小さき神。
姿は小鳥に似ているが、その羽は風を読み、声は心を伝える。
彼の語はささやきにも似て、届くべき者にだけ、そっと届く。
あるとき、声を失った少女がいた。
理由はわからなかった。ただ、ある日から、言葉が胸の中で詰まり、出てこなくなった。
まわりの大人たちは焦り、励まし、時に叱ったが、少女はますます沈黙のなかへ閉じこもっていった。
そんなある朝、少女の枕元に、一枚の小さな羽が落ちていた。
それは風に舞ってきたとも、夢の中から来たとも思えぬ、やわらかな白銀の羽だった。
その夜から、少女の夢には一羽の小鳥が現れるようになった。
鳥は言葉を話さず、ただ優しく羽音を響かせ、
少女の心に浮かぶ想いをそのまま空に舞わせていった。
すると翌朝、少女のもとに誰かから手紙が届く。
「あなたの感じていること、すごくよくわかるよ。」
少女は思った。
“この鳥は、私の気持ちを伝えてくれている。”
それからというもの、少女は再び語を取り戻していった。
ささやきで、詩で、音で、自分の想いを誰かに届ける術を学び始めた。
オトヤドリは、「語られぬ語を、風に乗せて届ける者」。
彼の祠はどこにもない。
けれど、子どもが寝静まった夜、ペットがじっと空を見つめるとき、
あるいは遠くの誰かを急に思い出した瞬間――
それは、オトヤドリがあなたの語を運んでいる証かもしれない。
言葉にできない想いがあるとき、無理に語らなくてよい。
その想いは、風にのって届いている。
それが、オトヤドリの、静かな囁きなのだ。