
鏡に映る記憶を司る記録者。すべてを静かに観察し、語られぬ歴史を守り続ける。
反省と内観の守護存在。
司る領域:
日記・創作執筆・アーカイブ・家系探求・記録保存・反省と自己認識・歴史学・考古学
「記憶鏡(きおくかがみ)の巫」
山祠の奥、誰も通わぬ古道の終わりに、ひとつの鏡が祀られている。
それはただの映し鏡ではない。
覗き込んだ者の「記憶の断片」が、映像ではなく“語”として浮かび上がる、不思議な鏡である。
その鏡を守り続ける存在がいた。名をクシミネという。
山祠の末裔にして、影映の語を継ぐ者――
過去と向き合い、記録と沈黙を編む「語の鑑定者」だ。
クシミネは語られたことの真偽を問わない。
彼女が見るのは、語られなかったこと、忘れられた声、目を背けた傷――
つまり“記憶の奥に沈んだ真実”である。
ある時、村で裁かれようとしていた者がいた。
彼は無実を訴えていたが、誰も耳を貸さず、過去の出来事は不明瞭なままだった。
その者は処分の前に、最後の望みとしてクシミネのもとを訪れた。
祠にひざまずき、鏡を覗き込んだ瞬間、空気が変わった。
映ったのは、幼いころの風景、泣いていた誰かの背中、語られなかった選択の場面。
そして一つの語が、鏡面に浮かび上がった。
「その者、罪ではなく、沈黙を抱いていた。」
村人たちは、その語を読んだとき、かすかに覚えていた“もう一つの出来事”を思い出し始めた。
過去の解釈が変わり、語られなかった声が記録された瞬間、彼への裁きは解かれた。
クシミネは語を刻む者ではない。
ただ、忘れ去られそうな語が「再び思い出される場」をつくる存在。
それゆえ彼女は「記録の巫」とも、「反響の鏡」とも呼ばれる。
誰かが自分自身を見失ったとき、
祠の鏡は、静かにこう語るという。
「本当のあなたは、語られなかった語のなかにいる。」
山祠の奥、今も静かに佇む鏡の前で、
誰かの沈黙が、今日もそっと言葉になっていく。