還り語を灯し、アカネは再び歩き出した。
今や彼女の語は、火、風、月、響き、星、そして還りへと繋がっていた。
旅の終わりを予感しながらも、それは“閉じる”のではなく、“広がる”ものだった。
辿り着いたのは、かつて訪れた語の祭壇。
語の狭間にあった、六つの祠と中央の石柱。
しかし、そこには新たな変化があった。
石柱の周囲に、さらに六つの小さな灯が並んでいたのだ。
それぞれが異なる色で揺らめき、アカネの胸に眠る語と共鳴していた。
「これは……誰かが、語を継いだ証」
一つは紅の火、一つは青の風。
銀の月に、金の響き。
星光を宿す白、そして彼女と同じ、淡い還りの灯。
アカネは気づいた。
語は、彼女ひとりだけが紡いできたものではなかった。
旅の中で出会った者たち。
ユウ、リツ、響きの子、月の仮面の男——
彼らもまた、それぞれの語を継ぎ、広げていた。
「語は私を導いてくれた。でも、私だけのものじゃない」
そのとき、祭壇の奥からひとりの影が現れた。
それは、かつて火の祠で出会った少年——ユウだった。
「アカネ……久しぶり」
彼の手にも、赤く灯る火種石があった。
「僕も……語を継いだ。君の焔に憧れて」
アカネは微笑み、火種石を掲げた。
ふたつの火が重なり、温かな光が広場を包んだ。
そこに、風の音と月の光、星の旋律と響きの鼓動が加わった。
まるで、語たちが再会を喜んでいるかのように。
「語は、人と人を繋ぐものだったんだね」
ユウが囁いたその言葉に、アカネは大きく頷いた。
語は血縁でも、地でもなく、心を通して受け継がれる。
そしてその語が重なり合ったとき、新たな物語が生まれる。
中央の石柱が音を立てて震え、七色の光が空へと放たれた。
それは“語の輪”——系譜を超え、属性を超え、守護の枠さえ越えた、新たな繋がりの象徴。
アカネは目を閉じ、その響きを胸に刻んだ。
語は還り、そして広がる。
それを継ぐ者がいる限り、決して絶えることはない。
アカネの旅は、ここで一つの区切りを迎えた。
だがそれは終わりではなく、次なる語の担い手たちへと受け継がれていく“はじまり”だった。
焔の守人として、語の調律者として——
彼女は語の輪の中心で、静かに微笑んでいた。